はじめに:コロナ禍以降の分離不安が増加している理由

コロナ禍を経てリモートワークや在宅時間が増えた結果、愛犬と過ごす時間が長くなったというご家庭は多いでしょう。ところが、社会活動が再開し、飼い主さんが以前のように出勤や外出を増やすと、犬が急に「独りぼっち」になる時間が増え、分離不安やストレス行動が目立つようになるケースが増加しています。
- 分離不安とは、飼い主と離れる際に犬が過度な不安や恐怖を感じ、吠え続ける・破壊行動・排泄トラブルなどを起こす状態。
- 「家に人がいないと落ち着かない」「外出時にドアをひっかく、鳴きやまない」といった症状が典型例。
2025年現在、獣医行動学の研究はさらに進み、フェロモン製品や音楽療法、AI搭載のモニタリングデバイスなど、最新のガジェットが分離不安対策に役立つことが分かってきました。
1. 分離不安とストレス行動の基本

1.1 分離不安の定義と主な症状
分離不安(Separation Anxiety)とは、飼い主や犬が強い愛着をもつ対象から離れるときに、過剰な不安を感じて異常行動を引き起こす状態を指します。
具体的には:
- 過度な吠え:飼い主が外出すると狂ったように吠え続ける
- 破壊行動:ドアや家具を噛む、ひっかく
- 粗相:普段はトイレが完璧なのに、留守中だけ失敗する
- 食欲低下や嘔吐:ストレスから消化不良に
1.2 犬のストレス行動が増える背景
コロナ禍以降、在宅時間が増えた結果、犬は常に飼い主がそばにいる生活に慣れてしまったケースが多いです。そこから「再び外出が増える」と、犬は急に1匹で置き去りと感じ、大きなギャップがストレスになるというわけです。
- コロナベイビー犬: コロナ禍に迎えられた子犬は、外出や留守番の練習が不足しがちだった
- 社会化不足: パピーパーティなどが制限され、犬同士や他人との接触経験が少なくなった
1.3 コロナ禍~2025年の飼育環境変化
- リモートワークが一部恒常化し、中途半端に飼い主が在宅/外出を繰り返す
- ペットテックの進歩: AIカメラや自動給餌器が普及した一方で、犬のメンタルケアとのバランスが課題
- 行動学研究の進展: 獣医行動学と最新ガジェットを組み合わせたハイブリッド対策が注目される
2. 行動学的アプローチ:犬の心理を理解する

2.1 愛着理論と「安全基地」の概念
犬は群れで生活する動物であり、飼い主を安全基地として認識することで安心感を得ています。愛着理論によると、子犬は安心できる存在が近くにいることで学習や探検行動を行い、いないと大きな不安に陥ることがあります。
- 分離不安は、この「安全基地」がいなくなったときの強烈な不安反応
- 対策: 飼い主がいなくても安全と犬が認識できる環境づくり
2.2 飼い主の外出を慣らすステップ法
- 短時間外出練習: まずは玄関を出てすぐ戻るなど、数秒~数分のレベルから始める
- お留守番の合図: 出かける前に特定の合図(音や言葉)を与え、ポジティブなイメージを関連づける
- 報酬タイミング: 帰宅後、犬が落ち着いているときに褒める(吠えや興奮が収まってから)
- 徐々に時間を延ばす: 短時間で成功→中時間で成功→最終的に数時間のお留守番が可能になる
注意点
- 「後追い行動」を無視して家を出るのが基本。過剰にあやすと不安を増幅させる場合も
- 吠えを叱るのは逆効果になりやすいので、静かに指示を出すか環境調整する方が大切
2.3 報酬型トレーニングと逆効果な対応
- 報酬型トレーニング: 犬が落ち着いて静かに待てたタイミングを見計らってオヤツや声掛けで褒める
- 逆効果な対応: 吠えた瞬間に抱きしめる・叱る・大声を出す→犬は「吠えれば飼い主が反応してくれる」と学習する危険がある
3. フェロモン製品(ADAPTILなど)の活用

3.1 犬用フェロモンの仕組み:なぜリラックス効果がある?
フェロモンとは、同種間でメッセージを伝達する化学物質。ADAPTIL(アダプティル)は出産後の母犬が分泌する「犬安心フェロモン(Dog Appeasing Pheromone)」を人工的に再現した製品です。
- 犬はこのフェロモンを嗅ぐと、母犬に守られていた子犬時代の安心感を思い出し、リラックス効果を得るとされています。
3.2 フェロモン拡散器・首輪・スプレーの使い分け
- 拡散器(コンセント差し込み型)
- 室内の空気中にフェロモンを放出し、広範囲に効果を及ぼす
- 留守番時に部屋に置くことで犬が安心しやすい環境を作れる
- 首輪(コリャータイプ)
- 外出先や散歩中でもフェロモンを持ち歩ける
- 首輪周辺で放出され、犬自身がいつでも嗅げる状態
- スプレー
- ケージやクレート、車内などピンポイントで利用
- 強いストレスを感じやすい場面(病院、移動時など)で手軽に使える
- 導入事例: 留守中に吠える問題があったフレンチブルドッグが、ADAPTIL拡散器を設置後、徐々に吠え時間が短くなったという報告。完全に吠えが消えるわけではないが、不安度が下がった様子が見られる。
4. リラックス音楽・アプリなどの最新ガジェット

4.1 音楽療法の研究:テンポ・周波数が犬のストレスを下げる?
- 獣医学研究によると、クラシック音楽やゆったりしたテンポの曲が犬の心拍数やコルチゾール値を下げる傾向
- 一方で、ロックや電子音が激しい曲は逆に落ち着きを失う可能性がある
- 最近は「犬専用のリラックス音楽」を配信するサービスも増加
4.2 しつけ支援アプリ・AIペットモニターとの連携


- しつけ支援アプリ
- 犬の吠え声をAIが分析し、どの程度のストレス状態かを推定
- 飼い主不在時でもスマホから音声で話しかけられる機能がある場合も
- AIペットモニター
- カメラが犬の動きをトラッキングし、落ち着かない様子が続くと通知
- 飼い主はアプリを通じて声掛けしたり、おやつを遠隔給餌するモデルも
5. トレーナー監修の行動矯正プログラム

5.1 専門家に依頼するメリット
- 個々の犬の性格や環境を踏まえてアドバイスを受けられる
- 行動学的手法を熟知したプロトレーナーが段階的にしつけプログラムを作成
- 問題が複雑な場合でも、別の角度(栄養・健康状態)からの検討が可能
5.2 カウンセリング&オンラインレッスンの流れ
- 初回カウンセリング:犬の生活環境や行動履歴をヒアリング
- プログラム策定:分離不安を軽減するためのステップ練習、環境調整(ケージの配置、BGMの導入など)
- オンラインレッスン:ビデオ通話で犬の行動を見てもらい、飼い主と一緒に改善ポイントを学ぶ
5.3 行動改善に成功した事例
- 5歳の大型犬が飼い主の外出30分で吠え止まない→トレーナー指導のもと、短い外出練習とフェロモン首輪の併用で、約2ヶ月で吠えが9割減。
- ポイント: トレーナーによる定期フィードバックがモチベーション維持につながりやすい。
6. まとめ:分離不安を予防&軽減するポイント

- 環境を整える
- フェロモン拡散器や音楽療法を活用し、犬が落ち着ける空間を作る
- 行動学ベースのしつけ
- 短時間外出→徐々に慣らすステップ方式
- 吠えを叱るより、静かに待てた時間を褒める報酬型トレーニングが効果的
- 最新ガジェットを上手に使う
- AIペットモニターやしつけアプリで、留守中の状態を把握&遠隔フォロー
- 専門家の力を借りる
- 重度の分離不安は独力だと限界があるので、獣医行動学やプロトレーナーのサポートが有効
分離不安は「性格だから仕方ない」ではなく、適切なステップを踏めば軽減が可能です。愛犬のストレスをなるべく減らすことで、飼い主との絆を深め、より快適なドッグライフを送れるでしょう。
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